【ボート】読者の方から質問をいただきました
ご質問、第1号です!!
読者の方(コーチをされている方)から、トレーニングに関する質問をいただましたので、自分の回答共に紹介させていただきます。
質問内容
“ドイツのトレーニング” の記事を拝見しました。ドイツのクラブではSR:21程度で、MAXパワー・スピードでは漕がないとのことですが、 MAX パワーで漕がないということは艇速を落とすということだと思います。しかしボート競技はスピードを競う競技であるため、ドイツでもレースレートのトレーニングでは MAX パワー・スピードで漕ぐと思います。そこで(日本的な感覚かもしれませんが)疑問な点がいくつか浮かびました。
質問1
SR:21 で MAX パワーで漕がないトレーニングをしていて、レースレートでの MAX パワー・スピードは向上するのでしょうか?もちろん向上するからそのようなトレーニングをしているのだと思いますが、どのようなメカニズムで向上していくのでしょうか?私なりに考えた理由として、最大酸素摂取量の向上と、 MAX パワーで漕がないためテクニック面を改善する余裕があるのではないかと思いますが、どのようにお考えでしょうか?
回答1
おっしゃるとおり、SR:21をコントロールして漕ぐということは、トレーニングの強度とハートレートの数値に直結します。つまり、ハートレートを上げすぎない様にすることによって、最大酸素摂取量と乳酸の処理をレース時にスムーズに行うことができる身体を作るためのトレーニングです。
プロセスは少し異なりますが、日本ボート協会が現在推奨しているフランス式のトレーニング B1とB2と目的やベースの考え方は同じです。また、これらのトレーニングの短所(特徴)として、短期間ではなかなか効果を感じることができないことがあるでしょう。
また、日本の高校のレースは基本的に1000mなのである程度の体力とパワー体重があればそこそこの順位に持っていけることも事実です。ただし、大学でもボートを続けたい選手や世界で戦う代表クラスの選手を育成したいのであれば、このドイツ式またはフランス式のトレーニングはとても有効的だと思います。
ドイツ式とフランス式のトレーニングはそれぞれレート、スピード、ハートレートの指標が違うので、どちらを選択するかはコーチの判断になると思います。こればっかりは時間がかかることなので、一概にどっちが良いとは言えませんし、代表選手でもフランス式トレーニングが合わないと言っている選手もいます。もちろん、フランス式トレーニングがマッチしている選手もいます。自分自身は現在のドイツ式トレーニングの方がしっくり来ていると感じています。
質問2
SR:21のトレーニングとレースレートの間のレートのトレーニングもあると思います。日本で言うビルドアップやリズムバリエーションのようなトレーニングやインターバルトレーニングはドイツでもあるのでしょうか?また、そのような中間のレートではMaxパワーで漕いでいるのでしょうか?
回答2
ミドルレートのトレーニングもちろんあります。ただし、高強度インターバルトレーニング(短期高強度→短期休憩→短期高強度→短期休憩…)といったトレーニングはしていません。これはこちらのジュニアからシニアを通して言えることです。
一般的にドイツでは高校生も2000mレースが基本なのでよく行うのが、2000mのレート指定またはビルドアップ(SR:24~32の間)や500m(SR:レースレート)です。秋シーズンは1000mのレースが多いので1000mのレート指定 ( SR:24~32の間 ) なども行います。
これらのミドルレートのトレーニングはもちろん全力で漕ぎます。ただし、本番のレースプランをイメージして行うことが大切です。
回答後の質問者様の考察
お返事いただいた内容を受けて、私なりにフランス式とドイツ式のメリット・デメリットについて考えてみました。
私の見ているチームでは数年前からUTはフランス式のB1で漕いでいました。継続して取り組んだのですが、B1のスピードは速くなっていくものの、レースレート(特に1000mレース)のスピードにうまくつながらないと感じました。イーブンペースで漕げるようにはなっているのですが、そもそものスピードが伸びきらないような状態です。
質問者様の考察に関する自分の考え
これは自分も同じように思っています。B1やB2のUTスピードは速くなるけど、レースではなかなかそれを活かすことができないということです。前述したとおり、このトレーニングには長い期間がかかることなので仕方ないことではありますが…
質問3
フランス式はドイツ式よりもレートがB1の場合4枚ほど低くなるため、フィニッシュ後次のドライブまでに艇速が落ち、一本一本重いボートを立ち上げる漕ぎ方(艇速の変化が大きい)になるかと思います。
一方ドイツ式はフランス式よりレートが高いため、艇速の変化が少なく、フランス式と比較すると軽いキャッチになるのではないかと思います。このような違いがあるため、1本の強さを意識したいときはフランス式、レースレートでの軽いリズムをイメージしたいときはドイツ式、というように使い分けるのが良いのではないかと思いました。
例えば、私が今見ている選手にB1のレートだとそこそこスピードが出るが、レースレートになるとリズムが重く、なめらかな加速ができないといった選手がいるのですが、このような場合UTのレートをB1のレートからドイツ式のSR:21くらいまで上げるのが有効なのではないかと思いました。
回答3
おっしゃるとおり、フランス式は一本一本をパワーでしっかりと進めていく、ドイツ式ではローイングのサイクルでスムースに軽いリズムで進めていく。そういう違いがあると思います。
(追記:フランス式やドイツ式の漕ぎ方を言葉で表すのは難しので上記はあくまでイメージです。)
また、ドイツでも必ずしも軽いリズムのトレーニングだけではなく、テクニカルドリルではフィニッシュポジションやミドルポジションで休憩を挟みながらかつドライブをしっかり押すというトレーニングもしますので、そういったトレーニングを間に入れることも有効かもしれません。詳細は “ドイツのテクニカルドリル” をご覧ください。
ただし、個人的にはドイツ式とフランス式を混合したトレーニングは基本的にはおすすめできません。なぜなら目指すところは同じでも艇の進め方が違うからです。上述のとおり一本一本を大切にするフランス式とリズムを大切にするドイツ式、そこを同じにすると選手の混乱も招きかねません。いろいろなことに挑戦することも大切ですが、特に高校生などにはどちらかを選択し導いてあげることもコーチの役目だと思っています。
プライバシー保護のため一部内容を改変しております。
あとがき
今回、とあるボート部のコーチ様から質問を頂き、自分自身大した身分でもないのに恐縮ですが回答させていただきました。最後になりますが、ご質問いただきありがとうございました。また、記事化への承認許可を重ねてお礼申し上げます。
読者の皆様もご質問等ございましたら、お気軽にコンタクトフォームからお送りください。コンタクトフォームはこちら。