ドイツのレガッタ -その2
レース直前編
-その1ではドイツと日本のレガッタの日程の違いやプランなどを外側からの様子を書きました。第2回目となる今回はもう少し踏み込んでレースプランやレース前のプランなどローイングをメインに書いていきます。
レース前のトレーニング
レース前、調整用トレーニングは大体2週間前からスタートします。これは日本にいるときと大体同じ流れです。重要な大会前には2週間前の土日に少し小さな規模のレースに出て全国規模のレースに向けた練習試合に参加します。
– レース前のトレーニングプラン
レース2週間前、月曜日はいつもどおりOFFで火曜日からトレーニングスタートです。乗艇この週は比較的長距離16~20kmと標準的な距離を漕ぎます。もちろん、この中に長めの距離でレート指定のミドルスピード系トレーニングが含まれます。一例を挙げると2×2000m(SR/26-28-30-32)や2000m(SR/30)などです。他にもいろいろなバリエーションがありますが、ドイツの国家機密情報ですのでこの辺で…笑 ウエイトトレーニングについては週明け火曜日に行うときもあれば行わないときもあります。
1週間前になるといよいよレース前に向けてトレーニング距離も大幅に減ってきます。距離は12~16kmというところでしょうか。 ちなみに、月曜日はOFFのときもあれば練習の時もあります。 この中にスピード系のショートスパン&ハイレートのトレーニングが増えてきます。10~15本のパドル(ランニングスタートやスタート付きなど)や250m、500m(SR/RP)などです。
また、ドイツは、と言うか自分のコーチの良いところは毎レース前、毎回同じプランじゃないというとこです。(普段のプランもそうですが)大まかなプランはもちろん同じですが、その時の選手やクルーのコンディションによって、全員・全クルーが同じプランではなく、各選手・各クルーによって距離やスピード系トレーニングの強度を調整してくれます。というのも、毎週のようにレースがあるドイツでは、あるときはAジュニアの選手がU23やシニアの選手と一緒にクルーを組んだり、ある選手は先週のレースに出ているけど、ある選手は出ていない、ある選手はレースが続いて疲労が溜まっているなど、臨機応変に対応する必要もあるからです。これも、面白いところで日本ではなかなか無いことではないでしょうか?少し話はそれますが、コーチはハイシーズンになると毎週末どこかでなにかのカテゴリーのレースがあるので休みがありません。今週はAジュニア、翌週はシニア、翌々週はU23と言った感じでトレーラーを引っ張ってドイツ各地に引率します。どこかの記事にも書きましたが、そんなこともあってか、自分のコーチはレースが無い時期によく奥さんと旅行に行っています。
– レース前のレース
メインのレガッタ前には地元の州や小さなレガッタに出て、練習試合を行います。この前哨戦もレースによっては競合する選手やクルーと当たることもあるので気は抜けません。ですが、前哨戦ということもあっていろいろ試すことができます。例えば、本番の2000mレースに備えて、最初の1000mは他の選手と同じポジションに付き(スピードを極力抑えて)、後半の1000mを本番のレースと同じようにMAXで漕ぐなど。自分の弱い部分を再確認することができます。日本でも前哨戦で関東圏だと東日本選手権などがありますが、本番のレガッタとのブレイク期間が空きすぎてその間に身体からレース感覚が抜けてしまいます。だから、前哨戦というよりも、どちらかというと〇〇レガッタに向けて練習して、終わったら普段のトレーニングプランに戻って、再び本番の〇〇レガッタに向けた練習とせっかくの練習試合が活かせられていない気がします。じゃぁどこかのクルーと並べをすればいいじゃないかと言うことになりますが、正直2-3艇でトライアルを行うのと例え小さいレガッタだとしてもレースで並べるのとでは気持ちの入り方が違う気がします。
ドイツで驚いたクルーボートの組み方
日本だとクルーボートを組むとなると早いところでは2~1ヶ月の段階でクルーが発表され基本的にクルーボートでトレーニングを行うのが通例ではないでしょうか?ドイツではトレーニングを行う環境が違うのが一番の理由だと思いますが、基本的に学校や企業単位のクラブではなく、地域のクラブチームに所属するので、みんな異なる高校や大学、会社員までいます。最も近くに住んでいないクラブ会員もいるので、みんなで集まって練習することができないということもしばしばです。では、その場合どうするのか?答えは簡単で
“ぶっつけ本番“
なんですが!ぶっつけ本番でも十分速い!びっくりするぐらい速い!身体に何が起こっているのか自分でもわからなくなるぐらい速い!のです。この経験をしたのが2016 World Rowing Championships in RotterdamのLM4×で優勝したストロークとバウの選手2人と4×で練習したときとそのバウの選手と一緒に2019Internationale Ratzeburger Ruderregatta で4×でレースに出たときのことです。このときも初めてクルーを組んだのですが、艇が滑るとはこういうことかということを体感することができました。艇がピッチングする暇なく次のドライブに繋がりまた次へと進んでいく感触は感動ものでした。日本にいるときからそれを実行しようという考えや艇がスムースに滑っていく感じと言葉にだして言うのは簡単ですが、それは自分が想像していた以上の次元だったのです。(個人的に思っているのは日本人の頭の中にこの感触は無い気がする)
Site: MEINRUDERBILD.DE
話をもとに戻して、土日に集まることができれば事前にクルーを組んで練習することもありますが、複数のクルーにエントリーしている場合などでできないこともあります。これもレース数の多いヨーロッパの特徴ではないでしょうか?もちろん、一つ一つのレースは大切ですし、真剣に取り組んでいますが、それ以上にレースを楽しむ、ローイングを楽しむということができます。それに加えて、どんなクルーに乗っても合わせることができるという応用力もついてきます。また、ドイツではクラブ混成クルーを組むことも多く、オフシーズン中に近くのクラブが集まっていろいろな組合せでクルーを組みシーズンに向けてフィーリングを共有するといったことも行われています。(州単位では大きすぎるので数個の市のクラブが集まる感じ。日本でいうと県の規模ぐらいかな?)ドイツは全国にまんべんなく練習水域とクラブが点在しているので一つのクラブで特定のカテゴリーの選手が少なかったりやレベルに差がある選手がいる(例えば一人だけ代表レベルなど)ことが多いので混成クルーを組む一つの要因なのかもしれません。
レース前日は練習しない?
そうなんです。すべてのレースの前日に練習しない訳では無いのですが、特にシーズン入りと後半シーズンや特に重要ではないレースの前では土日レースの場合 金曜日はトレーニングをしないことがほとんどです。木曜日に最後の練習を終えてトレーラーに積み込みをします。これに関しても理由はいろいろ考えられますが、レースは基本土曜日は朝からスタートします。特に高校生が一緒に大会にでる場合、金曜日は普通に授業があるので授業が終わってから練習をして、積み込みをしてとなると19時近くになるでしょう。次の日も集合時間が早い上、州内のレガッタではコーチはレース前日にトレーラーを会場まで運んでしまうため間に合いません。また、ウィンターキャンプinスペインの記事でも取り上げましたが、ドイツの高速道路アウトバーン(=Autobahn)は牽引車の場合100km/hの制限速度があるので、当日の朝引っ張っていくとなると時間がかかるからです。これに関しては、各クラブのコーチによって考え方が違うのでなんとも言えませんが、リスクを抑えたある意味効率的なやり方ではないでしょうか。それに加えて、ドイツの高速道路は無料なのでこれができる要素の一つだと思いますが。
-その3『レース編』へ続く。
お詫びと訂正です。-その1を書いている時点で2部構成ぐらいで収まるだろうと構想していたのですが、-その2を書いている時点でこのままだと5000文字を超えるわ!ということに気づき -その3まで続きます。すみません。